ロバート・ハリスのキケロ三部作を読んでいる。キケロの秘書ティロの視点から、ローマ共和政末期の政治を描いた小説である。

これが面白い。ポンペイウスが海賊討伐のために空前の権限を要求し、キケロはその危険を理解しながら、政治的な事情から反対しきれない。そこへカエサルが顔を出す。いや、まだ何もしない。ただ、いる。それだけで先が気になる。

この小説、ドラマになっていないのか。チャッピーに尋ねたところ、映像化はされていないが、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが舞台化しているという。

へえ。

脚色したのはマイク・ポールトンという人で、ヒラリー・マンテルの『Wolf Hall』『Bring Up the Bodies』も舞台化しているそうだ。

おお、Wolf Hall。

テレビドラマ版を観たことがある。トマス・クロムウェルを演じたのはマーク・ライランス。大好きな俳優だ。

というのも、2010年にロンドンで『Jerusalem』という芝居を観たことがある。

当時、ドイツに住み始めて3か月ほどだった。周囲は分からない言葉ばかり。イースター休暇にロンドンへ遊びに行ったら、街中の言葉が分かる。

分かる、分かるぞ!

すっかりムスカになって、勢いで芝居を観に行った。

ところが、あんまり分からなかった。

それでも大いに感激し、ライランスのファンになった。以来、劇中で歌われた英国の第二国歌とも呼ばれる『Jerusalem』も大好きになった。

という話をチャッピーにしたところ、どうやらこの芝居、21世紀の英国演劇を代表する傑作の一つなのだという。2019年にはGuardian紙の21世紀戯曲ランキングで第1位になっている。

そんなにすごい芝居だったのか。

そういえば、当時ブログに書いたはずだ。

探してみると、あった。2010年4月6日の『Jerusalem』。第一幕は吉本新喜劇、第二幕は人情話、第三幕は悲壮な悲劇、と書いている。あんまり分からなかったと言いながら、第二幕以降は8割方分かったとも書いている。

今の記憶より、当時の自分の方が詳しい。当然だが。

さらに4日後には補足記事まで書いていた。各幕の前にフェアリーが無伴奏で歌った『Jerusalem』にすっかり魅せられて、いろいろ調べている。

そこにFacebookの動画へのリンクがあった。

開いてみると、なんと、あのフェアリーと舞台の映像が残っていた。

すっかり忘れていた。2010年の自分は、これを見つけてリンクを貼っておいたのだ。

さらに2014年の記事も発掘された。『Wolf Hall』がテレビドラマになると知り、出演者を調べていたら、クロムウェル役がマーク・ライランスだと分かって大喜びしている。

なんだ。全部書いてあるじゃないか。

私は自分のブログの大ファンである。

自分が好きな話ばかり書いてあるのだから当然だが、それだけではない。書いた本人がすっかり忘れたことを、昔の自分が楽しそうに教えてくれる。しかも、当時の自分は、その後の展開をまだ知らない。

今回の発掘で面白かったのは、文章だけではなかった。フェアリーの動画へのリンクである。

あれは、当時の自分がどうしてももう一度あの歌を聴きたくて探したものだろう。今のチャッピーなら関連資料をいくらでも探してくれるだろうが、何をそこまで探したいと思うかは、また別の話だ。

さて、今読んでいるキケロとティロの話も、20年後にはすっかり忘れているかもしれない。

2046年の自分が何かの拍子にキケロの名前を見かけ、昔のブログを掘り返す。そして、2026年の自分がポンペイウスやカエサルにこんなに興奮していたのか、と面白がる。

そのためにも、そろそろ書いておかなくては。

と思っていたら、チャッピーがこの文章を書いてしまった。

20年後の自分は、これをどう読むのだろう。