ドイツの本屋でドイツ人が書いた本を買うのは、意外と難しい。目立つところにたくさん平積みしてある本は、たいてい翻訳だからだ。ドイツの本屋ではミステリや歴史小説が目立つ。それだけ、このジャンルがよく売れてるのだと思うけど、そこにあるのは、ジョー・ネスボ(ノルウェー)や、C. J. サンソム(イギリス)や、カルロス・ルイス・サフォン(スペイン)や、ドン・ウィンズロウ(アメリカ)だったりする。ドイツ頑張れ。

で、今回買ったのも、なぜかアメリカ人の本。ただし、ドイツ人がテーマの本。著者は、ニューヨークに住むユダヤ系アメリカ人のジャーナリスト兼劇作家か何かで、ドイツのある編集者に誘われて、ドイツを数ヶ月旅して印象を本にまとめることにした。2010年の春から初夏にかけてのこと。あーそれなら僕も覚えてる。

[2013年3月21日追記: 著者の出身はイスラエルだそうだ。USの国籍があるのかは不明、というかもってなさそう。]

2010年と言えば、アイスランドのエイヤフィヤクラヨークトル火山が噴火して、ヨーロッパ中の空があちこち飛行禁止になったんだよなー。

Allein unter Deutschen - Eine Entdeckungsreise (邦題未定:ドイツ一人旅、みたいな感じか) Tuvia Tenenbom

タイトルは、文字通りに訳すと、「一人きりでドイツ人たちの中で - 発見の旅」だと思います。ただし、これはドイツ語版のタイトルで、アメリカで出版された、元の英語版のタイトルは、 “I sleep in Hitler’s room.” 「僕はヒトラーの部屋で寝る」

テーマは、ドイツ人であるとはどういうことか。で、ユダヤ人が書いたこの本がドイツの本屋でベストセラー入りしてるのが面白い。ドイツの本屋には、たいてい雑誌 Spiegel が発表しているベストセラーリストのコーナーがあって、この本はそのノンフィクション部門でたぶん5,6位ぐらいに入ってた。

日本人は日本人論好き、というのは昭和の頃にはよく言われていたと思うけど、今でもそうかな?その頃の日本人論の本の代表格の一つは「日本人とユダヤ人」で、イザヤ・ベンダサンというユダヤ人が書いたことになっていたけれど、後に日本人の出版社経営者兼聖書学者、みたいな人が書いたことが明らかにされている、まぁ色々話題の多かった本で、これもベストセラーだった。

このドイツに関する本の方は、本当に著者はユダヤ人のようで、単に旅行するのじゃなくて、行った先々でジャーナリストとして色んな人にインタビューしまくる。大手メディアの編集長とかディレクターみたいな人にも会うし、各宗教(カトリックもプロテスタントもユダヤ教もイスラム教も)の指導者にも合う。たまたま出合った人にインタビューすることもあるし、止まったホテルのオーナーとか支配人に話を聞くこともある。左翼政党 Linken のデモにも、ネオナチの巣窟になってるバーにも行く。優秀な学生が集まるギムナジウムや大学にも行って学生達と話す。

この著者が、何語でインタビューしているのか良く分からないのだけど、インテリとばかり話をしているわけではないので、どうやらドイツ語不自由ないらしい。しかも、この人はしょっちゅう中東にも行って、イスラエル側にもアラブ側にも出入りしてるようで、ヘブライ語もアラビア語もおっけー。

で、色んな人に色んな話を聞くので、ホロコーストのことばかり聞いているわけではない。一応定番の質問は、「ドイツ人であることが好きですか」。結構多くの人が、「いいえ」と答えてる。「まさか」という答えも多い。結構屈折してる。で、どこへ行っても、誰と話していても、ちょくちょく話がいつの間にかユダヤ人やイスラエルの話になる。著者は必ずしも自分がユダヤ人とは名乗ってないのに。「もうその話はしたくないのに」とぼやいてる。

2010年といえば、サッカーのワールドカップが南アフリカで開催されて、タコのパウルが予言を的中させまくった年。ドイツチームが勝つたびに、ドイツ人が騒ぎまくってた。この時、ドイツの三色旗を掲げた車や人がたくさん表通りを走ってたけど、実は、その10~20年前までは、往来でドイツ国旗を振り回すのはちょっと回りから引かれる行為だったそうだ。サッカーの応援ならOK、という雰囲気が出てきて、その後だんだん違和感がなくなったらしい。やっぱり屈折している。日本の日の丸に対する屈折と共通している。

2010年といえば、もう一つ、デュイスブルクで開催された Love Parade で混雑のあまり20人くらい死者が出た年。この事件の前に、この本の著者はデュイスブルクの市長にもインタビューして、彼の見識を高く評価している。その後、この市長は Love Parade 事件について、開催を許可したことや、警備体制の不備などで責任追及の矢面に立たされる。 Wikipedia によると、粘ったけれども 2012年2月にリコールで失職している。彼の名前は Adolf Sauerland. アドルフって名前の人は戦後殆どいない、というのもどこかで読んだんだが、いるんだなぁ。

ドイツに住むトルコ系ドイツ人の家庭にも出かけていく。第一世代の移民たちは普通にイスラム教を信仰していたが、第二世代は、とても世俗的で宗教なんて省みない人たちだった。ところが、今時の第三世代は、とても信仰を重視するよう回帰してるんだそうだ。ヒジャブ(頭にかぶるスカーフ)をまとう女性も増えている。で、この著者が彼女達に
「どうしてヒジャブをまとうのですか」
と聞くわけです。
「だってコーランにそうするべしと書いてあるから」
というのが答えですが、実はこの著者、コーランにも詳しい。詳しいのでそんなこと書いてないのを知っている(えー、書いてないんだ!?)。で、知っていて、重ねて彼女らに聞く。
「どこに書いてありますか」
彼女らは
「コーランのことを知りもしないくせにどうしてそんなことを聞くのか」
と怒っていうわけですが、著者はしゃあしゃあと
「私はコーラン学の教授です」
とかいうので、ひっこみがつかなくなった彼女らは、コーランを持ってきて、書いてある場所を探し始める。延々探してもないので、彼女達は
「私はあなたにすごく腹を立てている。帰ってくれ。」
と身もふたもないことを言いつつ著者を追い出す。

このエピソードだけ紹介すると、イスラム女性だけが馬鹿みたいに見えるけど、実は、この著者が会う人たちは皆たいてい、なんらかこういう不合理な受け答えをする。左翼もネオナチもメディアの大物も街の人も、ユダヤ教もカトリックも。話の都合が悪くなると、「今日は用事がある。明日11時にまた会おう」とか言うのだけど、翌日11時になっても12時になってもいつまでたっても現れない、とか。著者も著者で、普通そこはそれ以上突っ込まないだろう、というところを敢えて言う。これ日本でやられたら、横で見てる立場でも胃が痛みそう。

読んでいる間、ずっと「つまらない、あーつまらない」と言ってたのだけど、まぁ、ドイツ社会のすごく色んな側面に迫っているので、紹介しようとするときりがないくらい色んな話がある。読んでいて楽しくないのだけど、読み応えはあった、というところか。

著者が出した、ドイツ人気質に関する結論については、また今度書く。かも。しれない。たぶん。