明日はアカデミー賞の発表ですが、すべてのノミネート作品に背を向けて、見てきたのがこれです。

Warm Bodies (邦題未定: ウォーム・ボディーズ)

人に恋したゾンビ♂の話。彼が一人称で語ります。予告編を見かけて、しばらく前から楽しみにしてました。

ゾンビがはびこった世界。人は町の周りに高い壁を築いてその中に閉じこもって暮らしていて、壁の外にいるのはゾンビばかり。襲うべき人もいないので、ゾンビたちはただふらふらとさまよい歩いています。

でも、時々は人も補給物資を求めて壁の外に出てきます。ゾンビもここぞとばかり、これを襲うわけですが、そのさなか、ゾンビが人にひとめぼれ します。

ゾンビの名はR。Rで始まる名前だったのだけど、彼にはもう思い出せない。

彼女の名はジュリー。つまり、これは「Rとジュリー」の物語。

ええと、いわゆる「らしい」ゾンビ映画でも、ゾンビの設定は映画によって色々なわけですが、この映画のゾンビはかなり破格です。

Warm Bodiesのゾンビとは

ゾンビのくせに走るのが速い。ただし、気が向いた時だけ。

ゾンビが走れなかったのは、何百万年も昔の話。最近の映画のゾンビはたいてい走って追いかけてきます。でもこの映画では、人を襲うとき以外は、のろのろとしか動けないらしい。

人の匂いを嗅ぎつけることができる。

ただし、ゾンビ汚れを顔にひと塗りした人には気がつけない。建物の外からでも、建物の中にいる人に気がつけるのに、Rがジュリーの顔に手をなすりつけて汚すと、それだけで他のゾンビにはジュリーが人だとは分からなくなる。

ずっとものを考えている。

喋ることはほとんどできないのだけど、頭の中ではいろんなことを思っている。

ゾンビは眠らない。夢も見ない。

ただし、人の脳を食べると、その人の記憶を追体験できる。これがゾンビが見る夢。

ゾンビはそのうちボーニーになる。

ボーニーは骸骨っぽいもので、ゾンビより更に人から遠いもの。損傷が甚だしくなると、そうなる、のかもしれないし、ほどよく熟成すると、なのかもしれない。

なぜ人が、ゾンビになったのかは誰にも分からない。

既存の科学を超越した現象なのは間違いない。だから、ゾンビがほぼなんのきっかけもなく人間らしくなり、回復し始めてはいけない道理はない。

この最後の点は大事で、僕はなんとなく、ゾンビが人に戻る理屈を説明してくれることを期待して見ちゃったので、最初不満があったのですよ。何にも説明がないから。あまつさえ、物理的には損傷をひどくするだけのはずの出来事をきっかけに生きた人間に戻ったりする。でも、コアなゾンビ映画でも、ゾンビの出現には何の説明もないし、ましてやこれは正調ゾンビ映画ぢゃないから。

この映画のゾンビは記号的。ある種のゾンビ映画は、あり得ないはずのゾンビに、最大限のリアリティを持たせることを狙っている。だから、死体が動くという一点を除いては、なるべく通常の科学法則が破られないように務めている。この映画は違う。ここでのゾンビは、超常現象としてではなくて、他人とのつながりを求めてなかなか得られない、普通の人々の悩みを絵にしたものだ。だから、ちっともゾンビらしくないゾンビが出てくる。前者の映画を求める人は、この映画にはフラストレーションを感じると思う。

あのう、物理的に、じゃなくて、物語的にはRが人に戻った理由はしっかり説明されてます。ないのは、タイムマシン映画のタイムマシンの動作原理みたいな、エセ科学理論だけ。そういうのが良くできた映画はそれはそれで楽しいし、僕もそういうのが好きだけど、そうでなくてもいいよねってことで。

「桐島…」のゾンビどもを思い出したりする。あの映画では、リア充には笑われたり、目にも入ってなかったりする映画部のオタクたちが、ゾンビ映画を撮ろうとしてた。 Rはイケメンなので納得はしにくいのだが、彼の行動や考えはどちらかというとオタクっぽい。 Rに怯えるジュリーに声をかけようとして、頭の中で、

Don’t be creepy, don’t be creepy, … (怖がらせちゃだめだ、怖がらせちゃ…)

と自分に言い聞かせてる、とかな。♪人に姿を見せられぬ、獣のようなこの体。彼の、人の暮らしへの憧れと、コミュ障のリア充への憧れがダブります。

ジュリーに出会う前から、レコード(CDではない)のコレクションをしてたR。ちょっとWall-E (うぉーりー)みたいでもある。女の子に不器用で、でも好きな女の子に一途な感じは、確かにWall-Eにも似ている。

ジュリーの着替えで「オーマイガー!」なR。とってもティーン映画。「見ないで」といいつつ、Rが同じ部屋にいても平気で上着を脱ぐジュリー。まだこの時点ではジュリーはRをあんまり人間扱いしてない。

RといえばR・田中一郎。ダニール・オリヴォーはちょっと置いとく。この映画の監督があーるを知ってたはずはないし、あっちがRならこっちはどっちかっていうとZだったりするのだけど、この映画のRのとぼけた風味は結構あーるにも似てるなぁ。

Zといえば World War Z. あの映画の予告編でインパクトがあったのは、人の住む街を囲む高さ10m以上ありそうな壁と、そこに津波のように押し寄せるZどもでしたが、あの壁とそっくりの壁がこの映画にも出てきます。 Warm Bodies で、最後にあの壁が崩れたのは、人の街の崩壊じゃなくて、Zの脅威が去ったことを意味してるんだろうな。説明なかったような気がするけど。

アナリー・ティプトンがノーラの役で出てます。前に見たのは、「ラブ・アゲイン」の時で、中年男に恋するベビーシッターの役でした。ちょっとおばさんぽい顔なんだけど、印象的。ジュリー役の子よりずっといい。

アナリー、ちょっとジェフ・ゴールドブラムにも似てないか?ジェフってのは、色んなSF映画で科学者の役ばかりやってる人です。「ザ・フライ」「ジュラシック・パーク」「インディペンデンス・デイ」とかね。アナリーも、何だか今にも科学的うんちくを垂れはじめるんじゃないかと思いました。そういえばこの映画では、どうやら医者でもあったみたいだし。

ジュリーとノーラはRをジュリーの父に合わせるために、なるべくRを人らしく見せようとして、二人でメーキャップをすることに。Rを鏡の前に座らせて、いざお化粧、というところで流れてくるのは、「プリティー・ウーマン」。ナイス。

ジュリーのバルコニーのシーン。後から出てきたノーラに、小さく手をあげて挨拶するR。「サップ!」(Sup!)と返すノーラ。ナイス。

今時、白雪姫が剣を手にとって鎧を着て戦いヘンゼルとグレーテルが R指定の映画になる中で、この映画は本来の意味のおとぎ話です。米国でのレーティングはPG13 (13才以下は親の判断で)。ホラーの苦手な人でも大丈夫。

imdbによると、日本公開は2013年9月の予定。公開予定があってよかった。