角栄が首相になった頃は、僕はまだ小学生で、何も分からなかった。「よっしゃよっしゃ」とか「まぁこのー」とか口真似が学校で流行っていた。この本で、初めて角栄の業績の全体を眺めることができて嬉しい。ロッキード事件だけ、とかじゃなくてね。

田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 早野透 中公新書

角栄のすごいところを分かりやすいところだけ挙げてみると。

  • 39歳で郵政大臣、40台で自民党幹事長、大臣歴任、54歳で総理大臣。
  • 最終学歴高等小学校(今なら中学校)で、官僚をよく使いこなす。
  • 30台で議員立法を次々仕掛け、戦後政治の枠組みを形作る。
  • 首相として、日中国交正常化を果たす。

一番面白かったのは、総理になる前の議員立法のあたり。ガソリン税を作ってこれを道路整備用の目的税にすることで、大蔵省がコントロールしにくく建設省からみると使い出のある財源を作った。それで建設省の役人から大事にされる。これが自民党の建設族議員の始まり。

同じように、全国の特定郵便局を厚遇して、自民党の強力な支持基盤にするとか、テレビと新聞を系列化する一方、テレビ局の許認可を通して、マスコミへの支配力を強めるとか、郵政省にも強かった。

思想的には、右でも左でもなく田舎の生活を楽にすることが大事、という立場、庶民的な立場。あの時代の田舎の生活の厳しさは、今の生活の苦しさとは全く違うもの。山奥で、冬の間は道路が雪で通れなくなり、そんなときに病気になったら助からないこともあった。そういう時代に、予算を取ってトンネル掘って村への道路を整備する、ってのは、本当に地元住民にとってはありがたいこと。

これまで、政治家が道路作る、公共事業をやる、というと、予算をばら撒いて建築会社が潤う、無駄に立派な建物を作る、というイメージしかなかったけど、原点は本当に住民の役に立つものを作るところにあったんだ、というのを知った。まぁ、角栄の会社がそれで潤ったのも間違いないのだけど。あの頃の日本は、まだそういう公共事業を必要としていたということだと思う。

日中国交正常化も大変なことで、この時は中国にはまだ毛沢東や周恩来が生きていたわけで、彼らと堂々渡りあって話をまとめ、日中双方に友好ムードを作り出し、後の代の中国指導部にまで敬意を払われつづける、というのは、もう今時の政治家と比べるとスケールがなんというか。

こういう角栄の業績は、他にも色々本が出ていると思うけど、この本の著者は、もと朝日新聞の記者で、角栄に張り付くのが仕事だったので、角栄から直接色んな話を聞いている。それが本全体にちりばめられていて、角栄の人柄や人間味を感じさせる本になっているし、独自の資料的価値も生んでいると思う。