あっという間に歴史になってしまったんだね。

Jacked: The Unauthrized Behind-the-scenes Story Of Grand Theft Auto

ビデオゲームを、子供の遊びから大人が本気で楽しめるものに変え、ビデオゲームの売り上げを、大ヒットNo.1の映画の売り上げを遥かに超える額にまで押し上げた、 グランド・セフト・オート (GTA)シリーズの開発にまつわる話を描いた本。

犯罪者を主人公にし、品行方正な人々からの悪評を糧にして知名度を広げ、新しいゲームの世界を切り開いたものの、高まる一方の悪評に油を注ぐどころか爆弾を投げ込んでしまい、窮地に立たされてしまう。会社設立以来の仲間が次々やめる事態を乗り越え、今ももっとも注目されるゲームを出し続けているけれど、設立当時とはあまりにも雰囲気が変わってしまった、そんな会社の内幕が描かれています。

GTAには San Andreas が多分もう下火になったころに初めて出会って、はまった。

この本を読んで、僕がはまったころにはこのシリーズは曲がり角を迎えていたのだと分かった。

最初のGTAは、開発初期には Race ‘n’ Chase という名前で、主人公は警官だった。車は車道を走らないといけないし、信号も守らないといけない。歩行者を轢くなんてありえなかった。 開発者たち自身がゲームのつまらなさにあきれ、開発は行き詰った。

ある日、全面的に方向転換して、GTAが生まれる。車は盗むもので、どこを走るのも自由、人を轢いたり他の車にぶつけると点が入る。主人公はギャングから電話でミッションの指示を受けるが、ミッションを実行せずに、好きに街中を走り回っていてもいい。

当時のNo.1ゲームは Tomb Raider などで、もう3D表示が当たり前だったのに、GTAは街を上から見下ろす視点の2Dゲームだった。なので爆発的に売れはしなかったが、じわじわといつまでも売れ続け、続編を作らない理由がないぐらいには売れた。

そもそも、GTAの宣伝戦略はとんでもなかった。PRディレクターは、以前ある歌手を売り出すために、その歌手が「私のハムスターを食べた!」という見出しを大衆紙 SUN に出させて成功したりした人物で、そんな大物PRをゲームのために雇うこと自体前例がなかった。このディレクターは、ゲーム発売前からしかるべき政治家に情報をリークして、議会でわざとGTAを 叩かせた 。議会でのやり取りの音声を使ったラジオコマーシャルまで作った。新聞もこぞってこの問題を取り上げた。これにより、PRディレクターは「12~13百万人にアピールできた」と嘯いた。今でいう炎上マーケティング。

この宣伝戦略はGTAシリーズの伝統になり、アメリカではヒラリー・クリントンを含む多数の議員からも叩かれ続けたが、当初は旨く行っていた。SAの Hot Coffee 問題が起きるまでは。

あれが起きてしまった理由は、宣伝効果を狙ったからではなくて、開発者、とくにその親玉の Sam Houser のビデオゲームかくあるべしという思い入れだった。映画では犯罪者が主人公の映画は当たり前なのに、なぜビデオゲームはそうでないのか。大人をターゲットにするなら、犯罪も描かなければならない。ここまではよかった。

もう一つ、大人向け映画なら(18禁の映画ではなくても)当たり前の要素をビデオゲームに持ち込むのは Sam にとって必然だった。なので、SAにその要素は盛り込まれたが、発売前に社内で議論になり、販売サイドの懸念によって、その要素は「封印」された。 Sam は通常版が充分売れてから、18禁版をリリースするつもりだった。18禁版は大手量販店が扱わないので、子供に売ろうとしている、と非難される余地は少ない。通常版が売れた後なら、売り上げにも影響は出ない。

その目論見が狂った。GTAのコアなファンが、「封印」の解き方を見つけてしまい、その手段をネット上で誰でも手に入るようにしてしまった。会社は18禁要素入りのゲームを子供にも手の届く量販店で売ろうとしたと非難され、通常版のレーティングは “Mature” から “Adult Only” に変更されてしまった。量販店は棚から SAを撤去した。 SAを回収し、修正版を作り、元のレーティングを取り戻すために2500万ドルがかかった。会社の創立メンバーたちは心が折れて、次々やめて行った。

僕が手に入れた SA は元の版だった。買った店は Fry’s で、家電量販店というよりは PC 専門店だったので、撤去対象になってなかったんだと思う。 Hot Coffee のことは後から知った。もちろん封印解きました。

そして月日は流れ、GTA IVが発表され、単にビデオゲームの売り上げ記録を塗り替えただけでなく、あらゆるエンターテイメントの記録を超えた。初日だけで3億1千万ドルを売り上げ、スパイダーマン3もハリーポッターの最終巻もダークナイトも足元にも寄せ付けなかった。

今はゲームが大人向けの要素を扱うのは当たり前になってしまい、誰も騒がなくなった。ベストセラーはたいてい大人向けだ。大人向けのゲームは大人向けの棚に置かれている。でも騒いでいたのはほんの7年前のことだ。

初めてみたGTAだからか、それともやはり街自体のアクの強さのせいか、GTA IVの Liberty City よりも GTA SA の East Los Santos が好きだ。なので、再び舞台が San Andreas になるという GTA Vが出たら、やっぱり素通りはできないんだろうな。